俺の足は弾んでいる。自分でもわかっているが、止められない。いつもなら、適当に返す挨拶もしっかりと答えて、鳳に心配された。
今日は、委員会がある。本来ならば、部活動ができなくて、悔しがっているところだが、今は違う。今の委員会は、かなり楽しみになっている。なぜなら、委員会では先輩に会えるからだ。
俺は、保健委員になった。その理由は楽だから。毎朝、クラスの欠席者をチェックし、保健室前の黒板に書きに行くだけ。けれど、周りは『毎朝』というのが面倒らしく、人気が無い。だから、なれる確立が高かった。それで、この委員になることができた。そして、それと同じ理由で、先輩は3年間保健委員をやっているそうだ。これは、もちろん直接、俺に話してくれたわけではない。俺が盗み聞きをしたのだ。そう、先輩が同じクラスの竹本先輩と話しているところを。
その頃、すでに俺は先輩―― 先輩が好きだった。まさしく、俺のタイプで、とても清楚な人だった。
委員会は、1学年2列ずつで、前から1組、2組、・・・と座る。そして、俺のクラスと先輩のクラスはちょうど同じだったので、席が隣だった。だから、俺はいつも早めに来て、3年側に座る。少しでも先輩に近づきたいからだ。
そして、その日も先輩はいつもどおり、同じクラスの竹本先輩と来て、俺の隣に座った。・・・正直、この2人は仲が良い。だから、周りには付き合っていると思われている。しかし、当の本人たちは付き合っていない、と言っている。俺もそう思う。ただ、そう思いたいだけだが。とにかく、そのときに先輩は言った。
「私、3年間も連続で保健委員だし、委員長やれ、って言われたらどうしよう。」
「なればいいじゃねぇか。」
「楽だから保健委員に入ったのに、委員長なんて大変そうじゃない。」
俺はそれを聞いて、先輩でもそんなこと考えるのか、と思った。しかも、俺と同じような考えだったので、少し近づけたような気がしていた。しかし、そんな気持ちはすぐにどこかへ消え去った。
「ねぇ、さん。」
「ん?なぁに?」
「さんって、やっぱり竹本君と付き合ってるの?」
先輩の後ろの席――つまりは、先輩の隣のクラスの先輩がそう聞いたからだ。一応、周りを気にしてなのか、その先輩は小声で言ったが、隣の俺ははっきりと聞こえた。きっと、竹本先輩にも聞こえているだろう。
「ううん。お互いそんな気無いから。」
そう言って、先輩はいつも笑っていた。こんな風に聞かれるのを何度か俺は見たことがあるが、いつだって先輩はそうだった。だから、誤解されるんだ。
とにかく、そんなことがあって、俺は先輩がこの委員を選んだ理由を聞くことができた。しかし、それと同時にやはり付き合っているのかもしれない、という落胆もあったのは確かだ。だから、俺は委員会に行くのが、嬉しいのと嫌なのが半々だった。でも、先輩に会えるんだ、と思うとやはり足が弾む。俺と先輩にはそれ以外の接点が無いから。
ところが、今日はなぜか先輩は1人で来ていた。しかも、俺より早く。俺ももっと早く来ればよかった、と思ったと同時に、どうして竹本先輩と来ていないのか、と思った。付き合っていない、と本人たちは言っていたけど、疑われても仕方が無いくらい、仲が良かったのに。
結局、竹本先輩が来たのは、先生が来る少し前。こんなに遅く来たのだから、何か用事でもあったのだろう、と思った。しかし、先輩たちは一緒に帰りもしなかった。竹本先輩は早々と帰ってしまった。先輩もいつもより動作が遅い。俺は、少しでも先輩といたいから、先輩が帰るまで、帰らない。だから、俺の動作も自然に遅くなった。そして、先輩を見ると、いつもと表情が違っていた。先輩は俺の知る限り、いつでも笑顔だった。それが清楚な雰囲気で俺は好きだった。それなのに、今はとても辛そうな顔をしていた。やはり、何かあったのか、と思って、俺は気になった。
「先輩。」
気づけば、俺は帰りかけていた先輩を呼び止めていた。先輩は、驚いたようにこちらを振り返った。自分でも驚いた。今まで、一度も話したことなど無かったのに。
「日吉君、だよね?どうしたの?」
しかし、先輩はそう笑顔で言ってくれた。俺の名前を知っていてくれたのか、と喜んでいたが、先輩の笑顔がやはり、いつもと違っていたから、あまり喜べなかった。
「いや・・・。その・・・・・・。」
俺は、何と言えばいいのか、わからなかった。そのまま聞くのは、あまりに失礼だし、だからと言って、俺は遠回しに言えるほど、器用ではない。その上、今まで話したことも無いのに、世間話なんてできるわけもない。
「何?」
先輩がそう聞いてきて、俺はもう覚悟を決めて、言うことにした。
「あの、失礼かもしれませんが。」
「全然いいよ。」
「竹本先輩と何か、あったんですか?」
そう言うと、先輩は明らかに反応した。それなのに、まだ先輩は隠そうと、作り笑顔をしていた。
「今日は、ちょっとしゃべらなかっただけ。別に付き合ってるとか、そんなんじゃないし、いつも一緒じゃなくても問題無いでしょ?」
「そうですけど・・・。今まで、あんなに一緒にいたじゃないですか。それなのに、今日はあからさまにお互いを避けている。何か、あったとしか思えません。」
「・・・・・・・・・。」
俺は、そこまで言って、言い過ぎたと思った。
「あの・・・。すいません。」
「ううん、いいよ。日吉君は私たちの心配、してくれてるんでしょ?」
そう言った先輩の笑顔は、いつもの笑顔に少し戻っていた。それを見て、俺は心底安心した。
「じゃ、日吉君には話すね。」
俺には話す、というのが、先輩にとって、特別な存在になれたような気がして、少し嬉しかった。
「昨日、ちょっと喧嘩してね。本当は、どっちも悪くないと私は思ってるの。そのときは、ちょっと意地張ってて・・・。だから、私から謝ろうと思ったんだけど、このまま話さないほうが、2人のためかな、とも思って。」
「どういうことですか?どうして、話さないことが2人のためになるんですか?あんなに楽しそうだったのに。」
「・・・日吉君は、私たちのことどう思う?」
俺が質問をしたのに、先輩はそれを質問で返してきた。・・・どう思う、と聞かれても。
「仲良さそうだ、と思っていますが。」
「それ以外は?」
「・・・・・・いえ、特に。」
「じゃあ、私たちのこと、付き合っている、とは思わないのね?」
そういうことか、と俺は今更、先輩の質問の意味がわかった。付き合っているのか、と思ったことはあるが・・・。
「付き合ってない、といつも答えているのを見ているので、そうではないと思っています。」
これは正直、俺の希望だ。こうであってほしい、と思っていることだ。そして、先輩はこう答えた。
「そう。本当に付き合ってなんかないの。」
それを聞いて、俺は嬉しくなった。先輩と竹本先輩が、どうして今日は話さなかったのか、という疑問さえも忘れてしまうほどだった。
「それなのに、付き合っている、なんて周りに言われたら、困るでしょ。だから、このまま話さないのも1つの案かな、って。」
しかし、俺は先輩の言葉を聞いて、我に返った。
「・・・そうだったんですか。」
「うん・・・。あ、ごめんね。急にこんな話しちゃって。日吉君とは、そんなに話したこと無いのにね。」
「いえ、俺の方こそ・・・。」
「今度は、楽しい話いっぱいしようね。」
そう言って、先輩は帰っていった。そして、1人残った俺の心には、あることをしようと考えていた。自分でも、どうして、こんなことをしようと考えているのか、驚いたが、俺は次の日、すぐにそれを実行した。
「竹本先輩。」
「ん?君はたしか・・・・・・。委員会が一緒の・・・。」
「日吉です。」
朝練が終わってすぐに、俺は体育館へと向かった。たしか、竹本先輩はバスケットボール部だと聞いていたので、会えるかもしれないと思ったのだ。すると、本当に会うことができた。
「・・・俺に何か用?」
竹本先輩が心底、不思議そうにそう尋ねてきた。まぁ、そうだろう。先輩同様、竹本先輩とも、今まで話したことがなかったのだから。
「先輩のことなんですけど・・・。」
俺がそう言いかけると、竹本先輩はパッと表情を変えて、勢いよく話し出した。
「と何か、話した?」
「え・・・。・・・はい。」
「本当か?!どっちから、話しかけたんだ?」
「・・・俺からですけど。」
「おぉ。・・・で、何話したわけ?」
「竹本先輩と先輩が昨日、どうしてお互いを避けていたのか、という話です。」
どうして避けていたのか、そのことについて、先輩の考えは聞いた。だから、今度は竹本先輩の考えを聞こう、と俺は思っていた。そして今、俺はこうして竹本先輩と話している。しかし、竹本先輩は・・・。
「そんなことか。他は何か話してないのか?」
「はい。話してません。」
「なんだ。・・・で、そういえば、俺に何の用?」
先輩を避けていた、ということについて何の反応も示さなかった。話したくない、というわけでもなさそうだから、俺は話を続けた。
「お2人は本当に仲が良さそうでした。それなのに、昨日はお互いを避けていましたよね?先輩にはどうして避けているのか、聞きました。それで、竹本先輩はどうしてなのか、知りたいんです。」
「俺らは別に付き合ってるわけじゃないし、問題無いだろ。」
「付き合っていないにしろ、昨日の先輩は、とても辛そうでした。」
「・・・・・・で、は何て言ってた?」
「付き合っていないのに、付き合っている、と周りに言われたら、お互いが困るから、このまま話さないのも1つの案かもしれない、と。」
「そういうことだ。それじゃ。」
竹本先輩は、それだけ言って、立ち去ろうとした。しかし、そんなことで俺は納得できなかった。
「待ってください!・・・竹本先輩は、先輩を避けて辛くないんですか?」
昨日、先輩は本当に辛そうだった。きっと、お互いのためだと言いながらも、心の底では話したい、と思っているに違いない。だから、竹本先輩も・・・。
「・・・まぁ、辛くないと言えば、嘘になるけど、これでいいんだ。」
「じゃあ・・・!」
じゃあ、先輩を避けないで下さい。先輩は、本当に辛そうだったから。そう言おうとしたが、竹本先輩は笑顔で言った。
「そんなにが気になるなら、日吉君が相手してやってくれ。とにかく、俺はこのままでいくつもりだから。」
そう言って、去っていく竹本先輩の背中を見て思った。・・・そんなの無理だ。先輩は竹本先輩と付き合っていない、と言っていた。でも、きっと先輩は竹本先輩のことが、好きなのだと思う。だから、俺に竹本先輩の代わりになることはできない。
昼休み。俺は飯を食う気も無かった。だからと言って、食べなければ、放課後の部活に差し支える。それで、俺は気分転換に壁打ちをしに行った。
しばらく、俺は夢中で壁打ちをしていた。だから、俺は誰かが見ているのにも、気がつかなかった。一息ついたときに、ふと人の気配を感じた。
「・・・!・・・先輩。」
そこにいたのは、先輩だった。どうしてこんな所に、そう聞こうとしたが、先に先輩が言った。
「教室にいるのが嫌だから、ちょっと外に出てみたら、テニスボールの音がしてね。それで、来てみたら日吉君が真剣に壁打ちしてたから、見てたんだ。・・・ごめん、邪魔だった?」
「そんなことないです。」
「そう。よかった。・・・それより、日吉君。お昼ご飯食べたの?ずっと打ってたみたいだけど・・・?」
「いえ、まだです。これから、食べようか、と思って・・・。」
本当は、食べる気など無かった。だけど、それを先輩に言うのは、格好が悪くて、咄嗟にそう言っていた。
「じゃあ、一緒に食べない?私もまだだから。」
「はい、ぜひ。」
さっきまで、食べる気など無かったのに、先輩にそう言われると、思わずそんな返事をしてしまった。しかし、先輩を見ていると、自然に竹本先輩を思い出され、自分の考えを思い出した。・・・先輩は竹本先輩が好きなのだろう、ということを。
「・・・どうしたの?日吉君。」
「いえ。何でも無いです。」
「昨日、私は日吉君に相談したから、日吉君も何かあったら、言ってね。お返しがしたいから。」
そう言って微笑む、先輩を見て、やはり、俺の手には届かない人だな、と思ってしまった。
「ありがとうございます。でも、本当に何も無いので。」
「それなら、いいけどね。・・・さ、ご飯食べよう?」
「はい。」
お互いに、特に何の話もせずに、食べていた。・・・本当に不思議だ。昨日まで、話したことの無かった、憧れの先輩が隣にいるなんて。俺は飯の味よりも、そのことの嬉しさを味わっていた。
「・・・ごちそうさまでした、っと。あ、日吉君もちょうど食べ終わった?」
「はい。」
「まだ昼休みは、時間あるよね?・・・日吉君は、今からどうするの?練習する?」
「いえ・・・、特には。」
「じゃ、ちょっとお話しない?」
先輩は、俺の好きな笑顔でそう言った。やっぱり、不思議だ。昼休みに話せるぐらいになるなんて。
「いいですよ。」
「やった。」
嬉しそうに、先輩は言った。本当に喜びたいのは、こっちの方です。・・・とは、死んでも口に出せないが。
「日吉君って、テニス部なんだよね?」
「はい。」
「じゃあ――。」
そうして、俺と先輩は、他愛もない話をして、昼休みを過ごした。
それ以来、俺と先輩は、気がつけば一緒に昼食をとるようになっていた。そして、仕舞いには下校まで、共にするようになっていた。
「すいません。いつも、待ってもらって。」
「待ってなんかないよ。日吉君が部活しているのを見てるのは、楽しいし。しかも、日吉君、着替え早いから、本当に待ってないよ。こっちの方が遅れたらどうしよう、って思っちゃうぐらいなんだから。」
そう言って笑う先輩は、もう、以前のように辛い顔をしなくなっていた。・・・正直、今では俺と先輩が付き合っているのではないか、という噂が立っていて、俺は少し嬉しかった。
「でも、この暑い中、待たせているのは・・・。」
「暑いと感じるのは、日吉君が部活してるから。私は見てるだけだから、大丈夫だよ。・・・心配してくれて、ありがとう。」
「・・・じゃ、帰りましょうか。」
「そうだね。」
本当にこうして歩いていると、俺は自分でも、付き合っているのでは、という錯覚に陥る。
「そういえば、明日は、委員会があるね。」
「そうですね。」
「日吉君と仲良くなってから、初めての委員会か〜。・・・・・・・・・別に、今までと変わらないけど、何だか楽しみ。」
俺と仲良くなってから――つまりは、竹本先輩と離れだしてから、ということが、ふと頭をよぎった。先輩が少し辛そうな表情になったのも、その所為だろう。俺は、周りの噂に浮かれていた自分が嫌になった。・・・そうだ、先輩は、竹本先輩のことが・・・・・・。
次の日。俺は急いで、委員会の教室に向かった。早く行って、先輩を助けたい、と思った。俺が行って何になるだろう、とも思ったが、そんなことよりも早く行こうとする足を止めることはできなかった。
「・・・・・・こんにちは。」
そこには、先輩が既にいた。
「こんにちは。・・・どうしたの、日吉君。まだ遅刻にはならないよ?」
そう言って、先輩は笑っていた。・・・俺は、少しでも役に立っているのだろうか。いや、そんなことはどうでもいい。先輩が笑っている間は。そう思って、俺もいつものように話した。
「いえ・・・。うちの担任の話が長引きそうだったので、逃げてきたんです。」
「その判断は正しいよ、日吉君。」
「そうですか?」
「だって、日吉君のクラスの担任って、山口先生でしょ?あの先生、本当に長いんだもん。」
そうして他愛も無い話をしていたが、この時間から逃げることはできない。・・・そう、ついに竹本先輩もやってきたのだ。その瞬間、空気が少し変わったのがわかる。それでも、俺と先輩は委員会が始まるまで、普段のように話し続けた。
委員会は終わり、竹本先輩は、またも早々と出て行った。先輩は、悲しそうにそれを見送っていた。やはり、先輩は竹本先輩のことが好きなのだろう。そう思って、俺まで落ち込みそうになる。
「日吉君。・・・日吉君?」
「・・・あっ!はい!なんですか?」
俺は慌てて、返事をした。・・・悲しいのは、先輩の方なのだ。
「あの・・・。今から、少し時間もらえない?」
どうせ、今日は部活が休みだ。時間ならある。ただ、いきなりどうしたと言うのだろう。やはり、辛かったのだろうか。それを俺が取り除けるとは思えないが、先輩に頼られているのだから、と俺は即答した。
「はい。『少し』でなくでも、大丈夫です。」
「本当?ありがとう。」
その笑顔がいつもと違っていたのは、明らかだった。
俺は先輩に、ついて来て、と言われ、ほとんど使われていない教室に来た。そこに入って、先輩は言った。
「日吉君・・・。無理なお願いなんだけど・・・。」
「なんですか?」
「抱きしめてくれない?」
思わず俺は、はい、と言いそうになって、慌てて止まった。
「いや・・・。」
「ここなら、誰も来ないから、噂になることも無いと思うの。だから、お願い。」
むしろ噂になっても、俺は構わない。だけど、先輩は、現に竹本先輩のことで、あんなにも悩んでいたはずだ。しかも、本当は竹本先輩のことが好きなのではないのか。
「でも、先輩は・・・・・・。」
「私はいいの。だから、お願いしてる。日吉君が嫌ならいいけど・・・。本当、少しの間でいいから・・・!!」
「・・・わかりました。」
先輩の勢いに押されて、俺は承諾し、先輩を抱きしめた。本当にこれでいいのだろうか。俺がそんなことを考えていると、先輩も俺の背中に腕を回した。
「・・・いつまで、こうしててもいい?」
いつもとは違う、本当に弱々しい声で先輩はそう言った。
「先輩の気の済むまで。」
「ありがとう・・・。」
先輩はそう言うと、さっきより力を入れて、ギュッと俺を抱きしめた。
こんな状況になるなんて、思いもしなかった。大体、先輩は竹本先輩が好きなのではなかったのか。俺は先輩にとって、何なのだろう。
そう考えると、俺はもう抑えられなくなった。
「先輩、1つ聞かせてください。」
「・・・いいよ。」
「先輩は、俺のこと、どう思ってるんですか?」
先輩は、少し考えてから話し始めた。
「・・・・・・。そうだね、こんなことまで頼んじゃったもんね。・・・わかった、言うよ。・・・・・・私は、日吉君のことが好き。」
近くで聞こえているのに、どうしても疑いたくなるような言葉だった。
「先輩は、竹本先輩のことが好きだったんじゃ・・・。」
「違うよ。」
俺の問いかけに、先輩はすぐに否定した。それも信じられなかった。
「私はずっと日吉君が好きだった。同じ委員になる前から、少し気になってた。それで、委員会では席が隣だったから、運命だなんて思ってて・・・。それから、どんどん惹かれていったの。」
そんなことあるわけがない、と俺はまた思ってしまった。だけど、俺は先輩が嘘を吐くような人ではない、ということも知っている。それでも・・・、と俺は最後に確認をとった。
「・・・本当ですか?」
「うん。だから、日吉君と仲良くなれて、本当に嬉しかった。今まで、1番仲が良かったのは、竹本君だった。でも、竹本君と話せなくなって、すごく淋しかった。そんなに仲が良かった人を失うのは、やっぱり辛かった。だから、どうしても、今日、日吉君に頼りたくなって・・・。ごめんね。」
嘘じゃない、そう思うと俺は、さっきまでとは違って、強気に言った。
「竹本先輩とは、付き合っていると勘違いされないように、今離れているんですよね?」
「・・・そうだけど・・・・・・?」
突然、俺の口調が変わって、先輩は少し戸惑っていた。そんな先輩も可愛い、と思ってしまうぐらい俺だって・・・。
「じゃあ、俺と付き合いましょう。俺も先輩のことが好きでした。・・・それなら、竹本先輩と疑われることも無くなるでしょう。」
先輩は、パッと俺から離れて俺の顔を見上げた。
「本当?」
「俺が嘘を吐くとでも?」
「ううん!・・・ありがとう。」
そう言って、先輩は、また俺に抱きついた。俺も今度は躊躇せず、抱きしめることができた。
次の日、俺はまた朝練後に竹本先輩を探した。
「竹本先輩!」
「ん?・・・あぁ、日吉君か。どうかした?」
竹本先輩の様子から、先輩はまだ言っていないようだ。俺から言ってもいいものだろうか、なんて少し考えてしまったが、そんなことより、早く先輩方が仲直りしてほしい。
「先輩と以前のように戻ってください。」
「・・・なんだ、いきなり。」
「竹本先輩も先輩も、『付き合っていると疑われるから』という理由で、お互いを避けていたんですよね?」
「まぁな。」
「なら、もう大丈夫です。今、先輩は俺と付き合ってますから。」
「・・・え?!」
竹本先輩は、かなり驚いていた。それを見て、少し面白がってしまった俺は、性格が悪いのだろうか。
「そうか・・・。いや・・・。うん・・・。に、おめでとう、って言ってやらないと。本当、アイツ、かなり前から日吉君のこと好き、って言ってたからな・・・。」
しかし、竹本先輩は驚いた後、急に大人しくなってしまって、さすがに俺も面白がってなどいられなくなった。
「・・・どうかしましたか?」
「そうだな・・・。日吉君には言っておくか。・・・俺、のことが好きだったんだ。」
今度は、俺が驚いてしまった。確かに、2人は付き合っていると疑われるぐらいで、俺も先輩が竹本先輩のことが好きなのだ、と思ったこともあった。だけど、そうだ。どうして、竹本先輩が先輩のことを好きなのだろう、と考えたことも無かったのか。
「には言うなよ。今、日吉君と付き合うことができて、幸せなんだから。」
「・・・・・・・・・。」
「ま、俺は、が幸せになるなら、それでいいし、日吉君のことが好きだってことも知ってたから、これが俺の望んでたことでもあるんだけど。・・・それでも、ちょっと悔しいかも、な。」
そう言って、竹本先輩は淋しそうに微笑んだ。
「絶対、を不幸な目に遭わすなよ。そん時は、俺が奪うからな。覚悟しとけよ。」
そして、竹本先輩は笑いながらそう言った。笑いながらだが、これは本音なのだろう。きっと、心の底から先輩の幸せを望んでいるのだ。
「はい。必ず幸せにします。竹本先輩には絶対に譲りません。」
「・・・なら、安心だ。じゃあな。一応礼は言っておく。を幸せにしてくれて、ありがとう。・・・だけど、おめでとうは言わないからな。」
そう言って、竹本先輩は教室へと戻って行った。俺はその背中を見て、絶対に先輩を悲しませたりはしない、とまた強く誓った。
珍しく、日吉夢で年上ヒロインです。
日吉夢のヒロインは、同い年の方が書きやすいんですよね。ですが!
たまには、日吉に敬語を使われてみたい!ということで、この話ができました(笑)。
そして、タイトルが被ってしまい(「Smile」の続編が「Existence」)、すみません・・・。
「存在(Existence)」という言葉って、「自分の存在理由とは?」「そもそも、何をもって存在しているというのか?」などなど、考えれば考えるほどすごく複雑で、すごく意味が深くて好きなんです。
本当、ややこしくてスミマセン;;以後、気をつけます・・・!!
それと、これを書いた当時、すごく仲の良い友達(男子)と喧嘩をしてしまいまして・・・。
仲直りできればいいなぁ、と思いながら書いた作品でもあります。
結局、この後仲直りしたんですが、また喧嘩しました(笑)。
・・・あれ?むしろ、2回目の喧嘩の後に書いたんだったかなぁ?・・・まぁ、いいや!
その人がここを見ることはないだろう!見てたら・・・、ごめん!!(笑)